母国マレーシアのマハティール首相(当時)が提唱した「ルック・イースト政策」の国費留学生として来日して以来、日本との関わりは20年以上になります。イスラム教徒として日本と関わり続ける中で、「ハラル」で日本とイスラムの懸け橋になりたい、と思うようになりました。それは、私自身が経験した2つのことがきっかけとなっています。
1つ目は、留学先だった群馬大学での経験です。初めて来日した1990年、私は19歳でした。マレーシアからは私を含めて4人の留学生が、大志を抱き、すばらしい環境で学べることを、誇らしく感じていました。私が留学したときは、まだ外国人がいること自体が珍しく、イスラム教徒はマレーシア人2人と、インドネシア人1人の先輩だけでした。先輩は、東京から離れたこの地で、ハラル食品を購入することの困難さを語ってくれました。また、外食をしようと思えば、ブラジル人などが多く住んでいた隣の市まで行かなければなりませんでした。当時、私が一番苦労したのは、友人との食事やゼミの飲み会です。ハラルでない料理が多く、みんなと同じメニューを楽しめないのです。私にとって、日本食はとても魅力的であったため、いつも残念に思っていました。この状況は今でもそう改善されたわけではなく、留学や出張で日本を訪れるイスラム教徒から「せっかく日本に来たのだから、おいしい日本食が食べたい。でも、ハラルでないから食べられない。」こういった声をよく聞きます。
もう1つは2005年からマレーシアの政府職員として再来日し、大阪で働いた時の経験です。当時、大阪から鹿児島まで西日本を隈なく回り、農業や製造業の現場を訪問しました。彼らは、全国的にはそれほど知名度はないものの、クオリティーの高いものを作っていました。ところが、景気の停滞と人口の減少で国内のマーケットが縮小しているなかで、海外に自分たちの商品を売ろうにも方法がわからない、また、売り出そうにも大手企業のようにネームバリューがないから上手くいかない、どうにかならないか、そういう声がたくさん寄せられました。
Made in Japanは高品質であるとのイメージから、母国マレーシアでもとても人気があり、私が食品のお土産などを持って帰ると、どれも大変喜ばれます。しかしその一方で、それを生産している日本の企業が苦しんでいる事実を知り、私は非常にもったいないことだと感じました。国内でも海外でも、こんなにも日本のものを体験したい人々がいるのに、ハラルでない為に、イスラム教徒にとって利用できないものとなっているのです。
イスラム市場進出の際のキーワードとして、ハラルを外すことはできません。ハラルというと、「アルコールを使用していない」「豚および豚由来の原料を使用していない」というルールが広く知られています。しかしハラルには、他にもイスラム教の教えに基づく様々なルールがあり、実際にはもっと複雑です。また、非イスラム国の日本では、ハラルにするにも自ずと限界があります。
そこで、私が伝えたいのはビジネスとしてのハラルです。イスラム教徒でない日本人が、イスラム教の教義について深く理解する必要はない、と私は考えます。大切なのは、このような信仰を持つ人々の行動や考えを尊重することです。そのうえで、日本が出来ることを考えていく。そこからコミュニケーションが生まれ、工夫が始まり、ビジネスチャンスが拡がってゆくのです。
長く日本で暮らすうちに、私の中で日本は第二の故郷のようになっていました。今の自分があるのも、学生時代から多くの人々に育てられ、助けてきてもらったお蔭だと感じています。私をこれまで育ててくれた日本へ、そして子を持つ親の立場となった今、これからわが子が育つこの国へ恩返しがしたい、そう考えるようになりました。
ハラルで日本とイスラム諸国をビジネスでつなぎ、日本とイスラムの懸け橋になること、それが私の使命だと考えます。
1990年3月 | マレーシアマラヤ大学 卒業 |
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1995年3月 | 群馬大学工学部 卒業 |
1995年4月 | 東京三菱銀行(現・東京三菱UFJ銀行)入行 |
1998年1月 | マレーシア国際貿易産業省 (MITI)入省 |
2005年7月 | マレーシア貿易開発公社(MATRADE)大阪事務所 所長補佐 就任 |
2007年9月 | ジョムマレーシアジャパン株式会社 代表取締役社長 就任 |
2010年9月 | マレーシア ハラル コーポレーション株式会社 代表取締役 就任 |
2012年11月 | マレーシア政府より東方政策留学生の中で際立った実績を残した人物として表彰を受ける |
2014年12月 | 一般社団法人ムスリム・プロフェッショナル・ジャパン協会 代表理事 就任 |
書 名:決定版「ハラル」ビジネス入門 著 :アクマル・アブ・ハッサン、恵島良太郎 刊 行:2014年9月2日 定 価:1,620円(税込) ISBN:978-4779010880 |
10年後には世界の4分の1を占めると考えられているイスラム教徒に向けて、ビジネスを行うための入門書となっております。イスラム教徒(ムスリム)は膨大な市場になると推測されているにもかかわらず、その市場に対応できる日本企業はごくわずかです。他社に差をつけるために必要なのは、「ハラル」、つまりイスラム教徒が口にすることを許された食品についての知識です。
その知識について、本書は全面的にバックアップします。